■さらばあんちゃん
さあ、ようやく出発だ。雨も上がった。今日こそは、道央へ向かっ
て行こうではないか!
と思ったのだが、走り初めて10分であんちゃんのバイクがまた
停まってしまった。
「すーさんだめだねこりゃ。ハッハッハ!チクショーふざっけんな
よー」
あんちゃんはやけっぱちな感じで笑っていたが、今日はさすがに
力がなかった。
「すーさんどうする?」
「うーん、そうだね・・・」
オレもどうしようか考えた。天気が悪いから、別にそんなに急いで
走る必要もないし、このままあんちゃんにつき合っているべきだと
も思うのだが、でもそれではかえってあんちゃんが気を使うんじゃ
ないかと思った。そこでオレはこう答えた。
「じゃあ、帯広の先にオレの友達の家があるからさ、オレは先にそ
こへ行ってるよ。もしもバイクが直らなかったらツーリングもジ・エ
ンドだけど、運良く直ったら友達の家で落ち合おう。それでどうだろ
うか?」
「わかった。じゃあそうしよう。あー、それにしても今回はどういう
ツーリングなんだよ!ハッハッハ!」
あんちゃんはこんな状況でもやはり笑っていた。

バイク屋に戻ると、店のご主人は「また来たね」という顔つきでにっ
こり笑っていた。オレはあんちゃんと別れ、一路友人宅を目指して
スタートした。残してきたあんちゃんが気にかかるが、バイクが無け
ればツーリングは成立しない。バイクを置いて電車で来ることも提
案してはみたが、やはりそれでは納得がいかないらしく、とにかく
バイクが直るまではここに残るとあんちゃんは言った。考えてみれ
ば、オレが同じ立場だったとしても、やはりバイクが直るまでは残っ
ていただろう。
バイクは単なる移動の道具ではなくて、あくまでも旅の友なのだ。

あんちゃんと別れて一人で走り始めた途端、ものすごく身軽になっ
て、妙に楽しい気分になってしまった。
オレの場合、バイクでツーリングしている時というのは、一人で走り
たい気持ちと、誰か一緒にいて欲しいという気持ちとが、心の中で
常に葛藤している。一人だけで自分勝手なペースで走り、好きな所
で停まり、写真を撮り、一服する。そしてまた走る。この繰り返しな
わけだが、人と一緒にいると、なかなか思うようにはできないもので
ある。思いっきりスピードを出したい時もあれば、だらだらと流しなが
ら走りたい時もある。速かったり遅かったりものすごく極端に差があ
るので、誰かが一緒にいたら、おそらくお互いに疲れてしまうだろう
と思うのだ。

だからこそ、一人で走るというのは実に気楽で楽しいのである。
だが、感動的に美しい光景に出会ったり、過酷な状況に陥って苦し
んだりした時には、誰か一緒にいればこの感覚を共有できるのにな
あ、と思ってしまうのである。自分勝手かもしれないが、しかしそうい
うものなのだ。
特に北海道ツーリングの場合は見所満載なので、一人で走りたい欲
望が普段にも増して大きくなるものだ。

昨日苦労して走ってきたニセコまでの15キロは実にあっという間
(10分くらい)であった。ニセコの交差点を右折し、ここから支笏湖の
横を抜け、千歳を抜けて帯広方面へ向かうルートを取ることにした。
ここからは山道である。しかし雨が降っているので、後方羊蹄山(シリ
ベシ山)の姿もさっぱり見えない。ただひたすら走るのみである。支笏
湖に着いた頃に、またしても雨が激しくなってきた。それにしても雨ば
かり降る。雨が侵入しないようにしっかり着込んでおいたので、服に
浸みてくることはないけれど、それでも雨はイヤなものだ。しかしここ
まで激しく降ってくると、むしろ開き直ってしまう。ざあざあとヘルメット
に当たる雨の感触も、何かシャワーでも浴びているような気がして、
少しだけおもしろいと思えてくる。まあ、こんな風にでも考えていない
と、今日の道のりは長すぎてやっていられないという事情もあるのだ
が。なにしろ今日は、雨の道を270キロ以上走らなくてはならないのだ。



NEXT
2002 北海道ツーリング  -8-
BACK | NEXT
停まったバイクを押すあんちゃん。
INDEX