■道央へ
支笏湖の濃い緑の仲を延々と抜けていくと、ようやく千歳市へと
入ってきた。畑の真ん中を走っていると、車輪を出して千歳空港
へ向かう飛行機が真上を横切っていく。更に走ると、道東自動車
道のインターが見えてきた。今日は先を急ぐので、高速道路を
使ってみることにしよう。

ここまでひたすらに走ってきたので、ようやく一息入れて、あん
ちゃんに電話をしてみることにした。オレの携帯(PHS)は北海道
では使いものにならないので、高速道路の管理事務所にある公
衆電話を使って電話をかけた。公衆電話っていうのも、なんとも
旅行気分が味わえてなんだか楽しい。さてあんちゃんに電話を
かけてみると、なんと驚くべきことにバイクは既になおっており、
早くもオレの後を追いかけて走り始めているというのだ。予想外
に早かったバイクの復活に、我々二人は多いに喜んだ。

話を聞いてみると、バイク屋のご主人があんちゃんと全く同じ
kawasakiのバイクに乗っていたので、その部品(イグナイター)
を取り外して売ってくれたというのだ。不調の原因は水の巻き込
みだけではなく、点火系そのものにもあったようである。イグナイ
ターを交換したところ、バイクは完全に好調さを取り戻したという
ことだった。これでようやく、雨の峠道でも安心して走れるように
なったのだ。それにしても、本当に良いバイク屋さんに巡り会った
ものだ。自分の部品を取り外してまで修理してくれたとは。もしあ
のご主人がいなければ、旅は間違いなくあそこで終わってしまっ
たはずである(しかしご主人は楽しみながら半分は趣味で修理を
していたようにも見えたけれど)。

ああ、よかった。これでまたあんちゃんと旅がつづけられそうだ。
安堵したオレは、電話をしながらタバコに火をつけた。一気にここ
まで走ってきた緊張感がやわらぎ、煙がゆっくりと立ち上っていく
のをぼんやり眺めていた。
しかしそうそうのんびりはしていられない。既に午後3時。はやくし
なければ、日勝峠を真っ暗になってから越えるハメになってしまう。
外に出てヘルメットをかぶると湿っていて冷たかった。イヤな感触
である。ああ、また雨の中を走るのかと憂鬱になる。 

料金所でチケットをもらいながら、係のおじさんとしばらく話をした。
利用者がまるっきりやってこないので、停まったまま話をしていて
も全然平気なのである。この道路は、途中夕張のインターで終わっ
てしまっている。その先の日勝峠の部分が未完成であり、峠を越え
て向こう側へ行くとまた高速道路がはじまっている。いつになったら
完成する見通しなのか尋ねてみると
「さ〜、そればっかりはわからんねぇえ」
とおじさんは苦笑いしていた。そうか、そういえば、北海道の公共事
業を山ほど手がけていた有名な国会議員は逮捕されてしまったし、
その後全国の高速道路のあり方が問われている今となっては、この
道がいつ完成するかなんて誰にもわからなくなってしまったのだ(も
しかすると永久にこのままなのかもしれない)。しかし、それもやむを
得ないことだと思う。こうしてさっきからずっと料金所で話をしているけ
れど、誰も利用者がやってこないのだ。これでは採算は採れるはず
もない。こういうのを「無用な道」というのかもしれない。いや、正しく
言えば「無用な道」などというのは世の中に存在しないと思うが、
「無駄な道」ならたくさんあるだろう。
利用者が絶対的に少ないのだから、税金使って維持するだけでも大
変なのだ。地元に人には便利かもしれないけど、やはりそういう道は
つくってはいけないと思うのだ。だからオレも、ガマンして一般道で日
勝峠を越えることにしよう。

インターから高速道路に上がってみると、道路は実に空いていた。車
なんてちっとも走っていない。インターから少し走ると、道はすぐに1車
線になってしまった。途中からはフェンスも無く、高速道路なのに「動物
の飛び出し注意」の看板が立っている。途中の道ばたで停まって用を
足したり写真を撮ったりしてみたが、あまり違和感を感じない(本当は
違反行為だけど)。
でも気をつけないと、時々信じられないくらいのスピードで車がすっ飛ん
でくるから注意をしないといけない。

高速道路は あっという間に終わってしまい、終点の夕張のインターで
降りた。既に暗くなりはじめている。夕張から日高までの間でまず一つ
峠を越えて、そこから更に日勝峠を越えると、ようやく十勝平野というこ
とになる。ヘルメットに雨よけのワックスを塗り、レインウェアを着直して、
さあ出発である。後ろからやってくるあんちゃんのことが気がかりだ。暗
くなってから峠を越えるのは大変だからだ。それに気温もぐんぐん落ち
ている。しかし今は、人のことより自分のことを心配しないといけない。
オレだって大変なのだ。



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2002 北海道ツーリング  -9-
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普通の道に見えるが、これが道央自動車道である。
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