■トラブル
書いていてイヤになるくらいブルーな展開がつづいている。これでも
北海道ツーリングなのだろうか?いつもの北海道ツーリングみたい
なカラリとした気分の良さが全く訪れないのだ。
長万部を過ぎてから更に60キロ以上走って、ようやくニセコ町に近
付いてきた。倶知安までは、あと20キロもないはず。もう少しだ。ど
うにか今日の目的地まで辿り着けそうである。日没が近付いて少し
ずつ暗くなっていく風景にややあせりながらも、我々二人は少しだけ
安堵しながら国道5号走っていた。

しかし、そうはうまくいかないのが今回のツーリングなのだ。なんとあ
の忌まわしい症状がまたしても訪れたのである。あんちゃんのバイク
の「エンスト」だ。
気がつくと、バックミラーに写るあんちゃんとバイクの姿が次第に小さ
くなっていく。最初は気のせいかと思ったが、しかしその距離は確実
に広がりはじめ、遂には完全に停まってしまい、気がついた時にはオ
レ一人で走っていた。ああ、遂に症状が再発したのかと、あわててU
ターンして戻ると、あんちゃんはバイクを降りて困り切った顔つきで苦
笑いをしていた。
「うわー、マジかよー!こんな何も無いところで症状再発したら、もう
どこへもいけねーぞ!」
あんちゃんは悲しい叫びをあげた。雨も止まず、気温は落ち、周囲は
ますます暗くなる。とにかくバイク屋を探さなくてはならない。

どうにかバイクを騙しつつニセコの街まで走り、そこでバイク屋と自動
車修理工場を何件か訪ねてみた。しかしどこへ行っても何故か修理を
断られ、たらいまわしにされてしまう。
「ピンチですね、ピンチ、いやー参ったな。さあどうしよう」
「とりあえず104に電話してバイク屋を探そう」
しかし104で聞いた数件のバイク屋もことごとく断りの嵐であった。考え
てみれば世間は今日からお盆に突入なのである。休み前に面倒なバイ
クの修理を引き受けることを敬遠するのは当然だろう。

しかし、最後に残った一軒の番号に望みを託して電話をかけると
「まあとりあえず来てみなさい」
その店の主(あるじ)はのんびりと言ったのだった。

店までは約15キロ。しかも今来た道を逆戻りだ。ああ、今回の旅はホン
トに時間がかかる。それにしても、僅か15キロの道のりがこんなに遠く
感じたことはない。あんちゃんのバイクは時間が経つごとにますます調
子が悪くなっていく。時速60キロくらいで走るのが限界である。さらに、
道が少しでも登りになっていると、バイクは徐々にスローダウンし始め、
遂にはエンジンが停まってしまう。
そのたびに我々はハザードランプを点けて道ばたにストップし、後続の
車をやり過ごし、それから改めてエンジンをかけるのだ。エンジンをかけ
るだけでも一苦労で、何度もセルを回して爆音を響かせながら回転数を
上げ、ジュワーっと少しずつクラッチをつないで、バイクを騙しながら走り
始める。クラッチミートの感覚がもはや絶妙のフィーリングを要する状態
で、少しでもあわててミートするとバイクの自重でエンスト、となってしま
う。これではまるで、F1のスタートだ。なんとデリケートなのだろうか。お
そらく4気筒のうち2気筒くらいは死んでいる状態ではないだろうか。

うまくいくと2キロくらいは連続して走れる。しかし調子が悪いと平らな道
でも急に回転数が落ちてきて停まってしまう。半クラッチも相当多用した
ので、うしろにいるとガソリン臭とクラッチの焦げる臭いでものすごいこと
になっている。あんちゃんは停まる度に首をかしげて苦笑いしている。
いや、後ろから見ているので実際の表情はわからないのだが、しかし間
違いなく笑っているだろうと想像されるのだ。あまりにも辛い状況で、オレ
さえも何故か笑っていた。

 そしてついに我々はバイク屋に辿り着いた。15キロ走るのに40分くら
いはかかったであろうか。
蘭越(らんこし)町という。こんな町には初めて来た。観光名所も何もな
い、小さな町だ。商店街の真ん中にその店はあった。店の前まで来て、
我々はとにかくヘルメットを脱ぎ、タバコに火をつけて一服した。
よかった、どうにかここまで来ることができた。

しばらくするとこの店のご主人が店の奥からゆっくりと現れた。
「いやー、このバイクかぁ」
背が高く、顔が細長くて浅黒く、のんびりと喋る優しそうな顔つきのご
主人である。「まあ、とにかく店の中に入れようか」
そう言ってご主人は、あんちゃんのバイクを軽々と押しながらピットに
ぶち込んだ。



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2002 北海道ツーリング  -6-
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昨日キャブまで外して直したのに、どうしてまた停まるのだ・・・
ようやくバイク屋に到着。とにかくホッとした。
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