■函館上陸
狭いフェリーの雑魚寝部屋で惨めに眠ること4時間、オレは4年ぶ
りの北海道にようやく上陸した。
あんちゃんのバイクが動くかどうか実に不安であったが、フェリー
に乗っている4時間のインターバルの間にキャブに溜まった水が
抜けたのだろうか、とにかくエンジンはかかった。これならなんとか
騙しながら走れそうだ。

フェリーを降りると、あんちゃんのオヤジさんが入れ違いに車でフェ
リーに乗るところだった。オヤジさんは我々を見つけると、自分の車
を降りて、サンダル履きで水たまりをよけながらひょこひょこと近寄っ
てきてあんちゃんと話をはじめた。
髭のダンディー(オヤジさん)は二言三言あんちゃんと会話を交わす
と「じゃあな」と、実にあっさりと自分の車へ戻っていってしまった。
髭のダンディーに関しては数々のエピソードをあんちゃんから聞い
ているオレなので、実物を見られてなんだか得した気分だ。ダンディー
はその風貌と行動から、親戚一同に「フセイン」とあだ名されているら
しい。酒の飲みっぷりやケンカの仕方、女性との交流など、全てにお
いて豪快ということだが、まぁ、あんちゃんのオヤジさんが普通な人
のわけがないよな。いつか一緒に酒でも飲んでみたいところだ。
ところでどうして急にあんちゃんのオヤジさんが登場するかというと、
実はあんちゃんの田舎が函館にあるからなのだ。この時あんちゃん
のおじいさんが病気で入院しており、オヤジさんとオフクロさんはちょ
うどお見舞いを終えて東京へ帰るところだったのだ。我々が今回函館
を経由したのは、フェリーの予約が取れなかったことも理由の一つだ
が、あんちゃんがおじいさんを見舞うという目的の方が実は大きかった
のである。

脱線してしまった。
さて我々二人は、雨の中を走り、函館市内にある あんちゃんのおじい
さんの家へと到着した。おじいさんの家だけれど、当のおじいさんは入
院中で居ないので、今はおばあさん一人で住んでいる。今日はバイク
の修理でどっちみち移動は無理だから、とりあえず全ての荷物を降ろ
して家の玄関口に置かせてもらうことにした。
おばあちゃん、80歳。元気ゲンキ。とてもそんな歳には見えないくらい
しっかりしている。
「ばあちゃんは変わり者で口が悪いよ」とあんちゃんから聞いていたの
だが、会ってみたら実に優しそうでかわいい感じの人だったので拍子
抜けした(実際のところおばあちゃんがどんな人なのかについては、
そんなに話もしなかったのでわからなかったが)。

家に上がってお茶を飲んだ。
大正時代におじいちゃんが自分で建てたというその家は、よく見ると全
体的にかたむいているのがわかった。しかし不思議なことにこの家が、
なんとも落ち着くのである。自分の心にぴたっとくる感じ。妙に懐かしく
て、子供の頃に自分が住んでいた家に戻ってきたような、というよりも、
自分が子供の頃にに戻ったような不思議な錯覚を覚えるのだ。
まるでタイムマシン。
おばあちゃんの出してくれたお茶を飲んでいると、ぜんまい式の振り子
時計が泣きそうなくらい感じちゃう音色で時を告げる。
ここはステキだぞ。

あんちゃんはバイクの修理をはじめた。もともと昔はバイク屋で整備を
やっていたのだ。だからとりあえず自分でなおす。ばあちゃんの家の向
かい側に車屋があって、そこのガレージを借りられた。車屋だけど、今
は店をやめてしまっているのでガレージは使い放題。工具まで全て貸
してくれたので、わざわざ雨の中バイク屋を探す手間が省けた。
不調の原因はおそらくキャブが雨を吸い込んでしまったことだと推測さ
れた。あんちゃんのバイクは自分なりに相当チューニング(簡単に言え
ば改造)されており、エアクリーナーを使わない「直キャブ」の状態なの
である。
あんちゃんはカウルを外してキャブを取り外し、エアガンで水分を飛ばし
始めた。気前良くガレージを貸してくれたご主人はJRの職員。あんちゃ
んが作業をしていると、気を使ってコーヒーやお菓子を持ってきてくれた。
作業が終わると家に招き入れてくれ、ゴハンまでごちそうしてくれた。
旅っていいな、と思うのはこういう時だ。
ゴハンをつくってくれた奥さんもいい人で、いろいろと話をして楽しかった。
東京にいると忘れてしまっている「ゆとり」というものを感じてしまう。退屈
しのぎに相手をしてくれているだけかもしれないが、でもこういうゆとりっ
て大事じゃないかと思う。
家の中は3人の子供たちが走り回ってにぎやかだ。しかし北海道の子供
達はどこへ行ってもなぜだか礼儀正しくて、きちんと「こんにちは」と挨拶
するのには感心した。




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2002 北海道ツーリング  -3-
ガレージの中。雨に濡れずに作業ができて、実に助かった。
函館市内のおばあちゃんの家。時間がゆっくりと流れます。
エンドウさんが行ってしまった後の時間は本当に長かった。
雨は相変わらず激しく降っている。
ようやく北海道に上陸。下船直前のカーデッキ。
修理の様子を覗きに来たおばあちゃんと。
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