■夜の仙台
それから8時間後、我々は八戸港に到着した。曇っているが空は明る
く、雨が降りそうな気配はなかった。フェリーでぐっすり眠ったので、休
養は十分。船を降りたらすぐに八戸インターへ向かい、一気に仙台ま
で走った。
あんちゃんは急いでいた。もう面倒なことは一切しない!とにかく少年
の家へ行って早いとこオサケを飲みたい!という体制で、途中のイン
ターでも、ラーメンを食べたら「さあすぐ出かけよう」と実にもう誰が見
てもわかるほどに先を急いでおり、さすがにオレもこのペースには参っ
てしまった。

仙台に着いた時には既に夕暮れであった。少年の家の近くまで走って
いる間にまたしても雨が降り出し、レインコートを着ていたらすっかり夜
になってしまった。

少年はサンダル履きでオフロードのバイクに乗って現れた。久しぶりの
再会である。少年と言っても年齢は22歳なので、具体的には全然少年
じゃないのだが、初めて会った時は16歳だったのだから仕方がない。
その時のあだ名のまま現在に至っているのだ。それにしても、少年が30
歳や40歳になったときにも、我々は相変わらず少年のことを「少年」と
呼んでいるのだろうか。今から少年の新しい呼び方を考えておいた方が
いいだろうか。まあしかし、そんなことはどうでもいいことだな。

仙台の街がとても大きく感じた。久しぶりに見る都会だった。少年のバ
イクに先導されて、3台で仙台の街を走った。 少年の家は、周囲を坂
道と階段に囲まれた迷路のような街並みの中にあった。映画で見る尾
道の風景に少しだけ似ている気もするが、しかしそんなに格好良い場
所ではなくて、尾道よりもずっと下町風である。

家に着く直前に勾配の急な坂道がある。
道が非常に狭くて、しかも両脇が階段になっている。要するにここは
自転車と人が通るための道なのだが、そこを半ば無理矢理バイクで
通ることになる。
この坂道のことは前々からあんちゃんの話に聞いていた。
「少年の家はとても落ち着く良い場所なのだが、行くときと帰るときに
難関があるからちょっと憂鬱なのだ」と。
行ってみたら、聞いていたとおり確かに狭い道であった。念のためバ
イクを降りて歩いて道幅を確かめてみた。オレのバイクはオフロード
タイプなので、大きいけれどどうにか通れそうであった。しかしあんちゃ
んのバイクはロードタイプなので、慎重に降りないとかなり怖い感じで
ある。両脇を階段に挟まれた一本橋風の道なので、なにしろ途中で足
をつくことができない。だから途中で止まることができないのだ。下か
ら人が上がってこない瞬間を見計らって、一気に降りる。二人とも慎重
に(そしてビビリながら)坂道を下った。

坂道を降りると、道はJRの線路に沿って右折している。車1台分ぎりぎ
りくらいの幅の狭い道で、フェンスに沿ってここを30メートルほど走ると
道はそこで行き止まり。右手は階段の坂道。左手は自転車しか通れな
い踏切があるのみ。要するにここは車が入ってこられない場所なのだ。
少年の家は、右手の階段を30段くらい上ったところにある。
線路際にバイクを停めて、荷物を降ろした。道幅が狭いのでバイクはこ
こでUターンできないから、帰るときは踏切を渡らなくてはならない。念
のために踏切を確かめてみたのだが、こちらは行きよりも更に難関度合
いが高かった。線路に降りる道は階段になっているのである。バイクで
階段を下りなくてはならない。
「ほらねー、すーさん、ここに来るのも帰るのも、かなりの難関越えに
  なってるでしょ?」
あんちゃんは苦笑いである。家に帰るためには確実にこの難所を越えな
くてはならない。それを考えると今から憂鬱である。踏切には自転車しか
通れないように出口のど真ん中にポールが立っているので、バイクの横
幅を減らすために荷物を降ろしてからでないとこの踏切は渡れそうにな
い。しかもこのポールがバイクのミラーに微妙に引っかかりそうな具合
である。もたもたしているとバイクごと電車にひかれてサヨウナラ、など
という最悪の事態も想定されて、ますます明日のことを考えたくなくなる。
これで更に雨が降っていたら、レールの上でバイクがつるりと滑って・・・
「あー!もうバカラシイ!つまんないこと心配するのやめて早く飲もうぜ
  飲もうぜ!」
オレはバイクの荷物をほどきながらそう言った。
「そうそう、心配事は明日の朝になってから考えればいいんだよ。今日は
  とにかく山のようにお酒を飲んで、うまいものを食おうよ!」
少年は我々の荷物運びを手伝いながら、そう言って大いに笑った。



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2002 北海道ツーリング  -21-
下船を待つライダー達。この待ち時間はとても長く感じる。
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仙台インター到着。長かった。そしてまたしてもカッパを着ている。
少年の家は何故か心が安らぐ。
あんちゃんはものすごく先を急いでいた。
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