■さらば鹿追
夕べは完璧なまでにおじさんにやられてしまった。気がついたらあっ
という間に朝になっていた。天候は薄曇り。昨日みたいなスカッとした
天気はそうそう長くはつづかないものだ。
朝食を食べてから、また庭に出てみんなでのんびりと時を過ごした。
コーヒーでも飲もうかとバーナーを取り出してお湯を沸かしたのだが、
考えてみたらキャンプ用品を使うのはこれが初めてであった。こんな
ことは未だかつてなかったことである。北海道といえばとにかく毎日
キャンプ!というのが鉄則なので、雨が降ろうが風が吹こうが、なに
しろテントを張って過ごしてきた。半ば意地みたいにその鉄則を貫い
てきた。しかし今回はまだ一度もテントを張っていない。

さて、ようやく北海道に到着したなという気分になったばかりなのだ
が、オレとあんちゃんは早くも帰り道のことが気になっていた。そう、
そうなのだ、何が心配かって、フェリーに乗れるかどうかが心配なの
である。今はお盆だ。そう簡単にフェリーに乗れるとは思えない。こ
ちらに来るときも、まるまる12時間もキャンセル待ちしてようやく乗
れたくらいなのだから。
北海道に来たときくらいは時間を気にせずのんびりしたいと思うのだ
が、今回はなかなかそういうわけにはいかなかった。仕方ないのだ。
フェリーの予約を持っていないことは、想像以上に辛いものなのだ。
あんちゃんにとっても、こういうせわしない旅行は初めてのことでは
ないだろうか。就職して夏休みに北海道へ来るということは、あんちゃ
んにとって初めてのことなのだ。

「すーさん、どうする?どこからフェリー乗る?いつ頃内地へ戻ろう
か?」
「うーん、そうだねぇ、こっちでできるだけのんびりしたいけれど、フェ
リー乗り場でまたせわしない思いをするのもイヤだからねぇ」
あんちゃんとオレは、コーヒーを飲みながらぼんやりと先のことを考
え始めていた。
「まーゆっくりしていけばいいじゃないの」
みたヤンはそう言って我々をひきとめてくれた。しかしながら、時間的
な問題だけでなく、天候の問題もあった。天気が良かったのは本当に
昨日の1日だけで、今日はまたしても曇り。そしてこの先の北海道の
天候は、またしてもはっきりしないという予報内容であったからだ。もし
また雨が降り始めたら、1日で移動できる距離が極端に短くなってしま
い、夏休み中に東京まで帰れなくなってしまうかもしれない。

考えた末に、我々はたった2日間の滞在でミタザキ家を後にして、本州
へと戻ることを決めたのであった。みたヤンもリカボンも残念がっていた
けれど、こればっかりは仕方がなかった。我々だって残念なのである。
ああ、もっと時間さえあればなあ。

荷物の積み込みは実に簡単であった。何しろキャンプ用品を全く開い
ていないのだ。パッキングの必要が全然ないから、袋に入ったままの
荷物をバイクにくくりつけるだけだ。

2日間お世話になったミタザキ一家ともここでお別れ。息子の裕太くん
も、次回会う時にはきっとものすごく大きくなっていることだろう。その時
までに、オレにはどのような変化があるのだろうか。もしかすると、オレ
の方は全然変化がなくて、相変わらずでやっているかもしれないな、な
どとぼんやり思っていた。
家の前で、ミタザキ一家全員が見送ってくれた。曇り空の下、オレとあん
ちゃんはフェリー乗り場のある苫小牧(とまこまい)を目指して出発した。

長い直線道路を鹿追に向かって走る。この風景を愛おしむように極めて
のんびりと走る。雨が降っていないというのは本当に気持ちの良いもの
だ。
その後、二人して日勝峠を越えた。日のあるうちに走ればなんていうこと
はない。それどころか、峠道はバイクで走るのが実に楽しかった。途中
日高のガソリンスタンドで休憩をして、それから一気に苫小牧へ向かっ
た。日高から平取(びらとり)を経由して海沿いまで走る。このあたりの風
景は、山と畑ばかり。あまり広がり感が無くて、本州の風景に極めて似
通っている。ホッとする風情ではあるのだが、北海道的な風景とは違う
ので面白味は薄い。苫小牧が近付くにつれて交通量も増えだしてきて、
なんだか現実の世界へ戻ってきてしまった寂しさがある。そんなことを
思っていると、なんとまた雨が降り出した。まったくやってられない。

最後の20分くらいで雨が急激に激しくなり、フェリーターミナルに着い
た時にはまたしてもびしょ濡れである。なんという旅なのだろうか。
しかし、まあいい。もはやここまで来れば、あとはキャンセル待ちをし
て、屋根の下で眠ることができるのだ。うまくいけば、今夜出発する仙
台行きに乗ることができるかもしれない。そんな淡い期待も抱いていた。



NEXT
2002 北海道ツーリング  -18-
庭でくつろぐ。のんびりするのっていいなぁ。
BACK | NEXT
積み込み完了。さらばミタザキ一家よ。
家の前でフリスビー!広いって羨ましいです。
日勝峠はいつも霧。下界が晴れでも上は霧、なんてざらである。
INDEX