■バーベキュージャック
その男は暗闇の中に突然現れた。
 「こんばんわー!」
家の中まで聞こえるほどのでかい声に我々3人が驚いて振り返ると、
赤ら顔の四十年輩の男が満面の笑顔でそこに立っていた。人が来る
なんて思ってもいなかったので、オレは相当驚いた。その男は年にし
たら45〜6歳といったところ。上半身は白い下着、下半身は短パンに
サンダル履きで、顔つきと身なりのギャップがものすごく奇妙な感じが
した。
 「あのー!ワタシ隣の家の長男なんですけど」
ははあ、そうか、ミタザキ家の地主のところの人なのか。
 「ワタシはね、ずっと札幌の方にいるもんだから、今日は久しぶりに
   帰ってきたわけなのさ。ところが帰ってきてみたら自分とこの敷地に
   新しい家が建ってるもんだからさ、いや驚いてね、オレの居ない間
   に土地売ったりとかしてさ、そんなことになってたなんて知らなかっ
   たもんだしさ、オレに何の相談も無くね、あ、いやいや、家建てたこ
   とがいけないなんてことを言ってるんではないんだよ、勘違いせん
   でね!ただオレは聞いてなかったからさ、ハッハッハ!」
この人は明らかにものすごく酔っぱらっていた。酔っぱらいはお互い
様なんだけど、この人のテンションの高さにはかなわないものがあっ
た。おそらく、実家の敷地に家が建ったということを聞いて、そしてそっ
ちの家でバーベキューなんてやってたもんだから、「これは一緒に酒
む相手が見つかったぞ!」と喜んでやってきたのだろう。そしてまたど
うもこの人がものすごい仕切り屋さんタイプであり、とにかく一方的に
どんどんしゃべってしまうのだ。それから自分に相談の無い間に両親
が土地を売ってしまったというのがやはりどうもあれなようで、決して
怒ったりしているわけではないけれど、オレはここの地主なんだから
ね!という姿勢を言葉の中にちりばめてくる、でも終始満面の笑みで、
とにかく全力でお酒を飲んでいる、そういう人なのであった。こういう
人っているよね。人が騒いでる場に顔出さないと気が済まない人ね。
そしてものすごく性格は良いんだけど、場を完全に仕切っちゃうから
周りが引きずられちゃう。

みたヤンにとっては土地を売ってもらった地主さんの身内だから、既
に接待モードに入っており、お酒のお酌などしながら一生懸命に話を
聞いている。あんちゃんも一緒に話を聞いている。今日のあんちゃん
はなかなか辛抱強いな。オレはどうもちょっと、ペースを狂わされてい
た。おじさんの話は結構おもしろかったし、一緒に飲むのは別にかま
わないんだけど、本当は我々だけで話が盛り上がってきたところだっ
たので、できれば3人だけで気をつかわずにやりたかった。

バーベキュージャックに遭遇してから、場は完全にこの人の独壇場
と化してしまった。地主さんなので我々も失礼な態度を取るわけにも
いかない。聞けばこのおじさんは札幌で工務店をやっているらしく、
実はみたヤンが住んでいた借家はこの人が建てたということだった。
そうかそうだったのか。しかしオレは、なんとなくこの人の話を聞きな
がら、すっかり静かになってしまった。酒を飲んでいる時に話ができ
なくなると、急激に眠くなってきてしまう。
もはや眠さの限界に達してしまったオレは、こそこそと部屋に戻って
一足先に眠ってしまったのである(この行為には後から相当な非難
を浴びたのであるが)。



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2002 北海道ツーリング  -17-
裕太くんもお手伝い。えらいぞ。
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あのおじさまは元気だろうか。
瓶ビールでカンパイ。
薄暮のバーベキュー。暗くなるのをのんびり眺める。
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