■あんちゃん到着
さて翌朝は、実に久しぶりに爽やかな晴天となった。晴れたのは出発初
日以来のことである。なんと天候に恵まれない旅であろうか。
部屋の窓から外を見ると、家の横にある松の木の枝の向こうに、広大な
畑の風景が広がっており、夕べの雨の滴がキラキラ光って誠に美しい
朝の風景となっていた。
外に出ると、夏とはいえ空気はひんやりとしており、なんとも心地良い。

リカボンに朝食をつくってもらい、みんなで食べた。裕太はまだ2歳だが、
これが驚くほどいろんなことをしゃべる。オレと話をしても、きちんと会話
が成立するのである。2歳の子供が平均的にどの程度の話ができるか
なんてオレにはわからないが、「2歳ってこんなにしゃべれるの?」とびっ
くりしてしまった。
 
朝飯を食べた後で、あんちゃんを迎えにバイクで鹿追の市街まで行った。
そういえばあんちゃんはどうなったかというと、実は昨日、高速道路を降
りたところまで来て、あまりの寒さと雨にギブアップとなり、早々に宿へ
泊まってしまったのである。しかも宿というのがユースホステルだった
のだ。オレが日勝峠を越えてコンビニで休憩している時、あんちゃんに
電話を入れてみると、既にあんちゃんはユースの部屋で酒を飲んでい
るところだった。
「何!?どうしてユースなんかに泊まっているのだ?」
オレは驚いてそう聞いた。
「ちくしょー!好きで泊まってんじゃねぇんだよー!泊まれる場所がここし
かなかったんだよー!」
夕張インターの周辺は何もないところなので、選択の余地などなかったと
いうことなのだ。昨日の状況からして、あの雨と寒さの中を無理して峠越
えしなくて正解だったのではないかと思う。それに泊まれる場所があった
だけでもラッキーである。
しかしそれにしても、あんちゃんとユースっていうのが実に似合わなくて、
これは笑えた。オレは電話口で大笑いしてしまった。
「ちくしょー!笑うんじゃねーっ!こんなとこ泊まるのイヤだよー!」
ただでさえ旅館や民宿が嫌いなのに、よりによって規則のうるさいユース
ホステルである。安いのはいいが、大部屋に雑魚寝だ。まわりの人々にも
気をつかわなくてはならない。そんな場所にあんちゃんがいるということが、
実におかしかった。

「ヒエー!なんか楽しそうだね。ギター弾きながらみんなで歌とか歌ったり
しないの?」
「そんなの冗談じゃねぇ!でも、歌は無いけど、隣のホモっぽい兄ちゃん
が一緒に飲みましょうとかいって話しかけてくるんだよー!もーいやだ!
早く朝になってくれ〜」
あんちゃんは電話の向こうで絶叫しながら笑っていた。でも、電話を切っ
たらきっとまたおとなしくなってしまうんだろうと思う。自分にあまりにも似
合わないこの状況を笑い飛ばしてくれる人もいないし、そういう苦しみ(?)
がまたはじまるわけであるから、それがイヤなんだろう。だからこそオレか
らの電話を待っていたのだと思う。あんちゃんは自らの状況を笑いに笑っ
ていた。うーん、この気持ちが実によくわかる。かわいそうに。まあ、こうい
う状況では早いとこ酔っぱらって寝てしまうに限る。

そんなわけで、異様に早寝して朝早く起きてしまったあんちゃんは、午前
中のうちに鹿追町まで着いてしまったのである。夕べあんなに苦労して
走ってきた日勝峠も、今日は快適そのものだったらしい。

市街地まであんちゃんを迎えに行って、オレは再びみたヤンの家まで
戻ってきた。あんちゃんとみたヤンは初対面であったが、意外にもすぐに
打ち解けて、早くもいろいろな話をはじめていた。
家の前はものすごく広い庭になっている。庭というか、空き地というか、ま
あとにかく広い。そこには木があったり、犬小屋があったり、納屋があった
りもする。車なんて停め放題である。
庭にはベンチがあって、そこへ座ってくつろいだ。今日は天気が良い。空
の色が気持ちいいくらいに青い。
犬小屋の主はナナちゃんである。7日に生まれたからナナちゃんという。
実はこの犬、近所からもらってきたのだが、たまたまオレもその時みたヤ
ンの家にいたので、オレはこの犬のことを飼い始めた初日から知っている
のである。しかしまあ、もらってきたときはあんなに小さかったのに、今や
すっかり普通の犬になってしまって、なんだか寂しいような気もする。
でも相変わらずかわいいナナちゃんなのであった。
 
午後になって、みんなでどこかへ遊びに行こうかという話になった。久し
ぶりに天気も良いし、オレも非常に嬉しい気分である。せっかく鹿追に来
ているのだから、この近くにある場所がいいと思った。するとみたヤンが
「それじゃあ然別湖に行ってカヌーに乗らないか?」
と提案した。一同大賛成であった。
カヌーは家の前の納屋に入っていた。鹿追町に来てからカヌーづくりの
教室に通っては、何年もかけて完成させた、みたヤン手作りのカヌーで
ある。それを納屋から引っぱり出し、みたヤンのジムニーの上にくくりつ
けて、さあ出発である。



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2002 北海道ツーリング  -12-
久しぶりの晴天に心が躍る。これは玄関から見た風景。
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奥さんのリカボンと長男の裕太くん。
あんちゃんようやく到着。家の中でしばしくつろぐ。
さあ、然別湖へ。
去年までの家の中を探検してみた。勿論まだ十分使用できる。
これがみたヤン手作りのお風呂場。なかなか雰囲気あります。
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