■新しい家
みたヤンとオレは中学校時代からの友人であり、知り合ってから既に20
年以上が経過しているという、なんとも悪縁腐れ縁の仲である。大学を出
てから大手のスポーツ用品メーカーに就職したみたヤンは「サラリーマン
は自分に合わない」とたった1年で会社を辞めてしまい、そのまま転勤先
だった名古屋に住み着いてしまった。地方で暮らすことを早くから目標と
していた彼は、その後新聞配達を皮切りに様々な職業を転々とした後、
小学校の教員になることを目指して勉強をはじめ、国家試験をパスした。
住む場所としては北海道か長野がいいと考えていたみたヤンだったが、
しかし地方採用がなかなか受からなくて、どうしようかと悩んでいた。小学
校の先生というのは人気がある職業のようで、生徒の数が減ってきている
最近では、先生になるのは結構大変なことらしい(人気があるというよりは
就職難と言うべきか)。その頃、偶然がきっかけで、鹿追町で行われてい
た「山村留学制度」のことをみたヤンは知った。町営の施設に子供を預
かって地元の小学校に通わせるという「国内ホームステイ」のようなこの
制度は、最近ではすっかり定着してきているようで、町興しの一環として
いろいろな地方で実施されているらしい。中には親御さん(主に母親と思
われる)共々引っ越してきて一緒に施設に住んでいる、というケースもあ
るそうだ。
みたヤンは早速鹿追町に手紙を書き、働き口がないかどうか確かめたと
ころ、「臨時職員という形であれば採用できる」とのことだったので、会社
員時代に知り合った彼女を連れて、名古屋から北海道へ移住してきた、
というわけなのである。

みたヤンが北海道へ移住してきてからは、オレは毎年のように彼の家に
転がり込み、北海道を旅するベースキャンプのようにさせてもらっていた
(オレが勝手にそうしていたのだが)。
そのみたヤンも、今や二人の子持ちとなっているのである。時間が経つの
は本当に速い。

さてそのみたヤンの家の前で、オレはしばし呆然と立ちつくしていた。驚く
べきことに、彼の家は立派なログハウスへと大変身していたのである。ロ
グハウスのすぐ横に、それまで彼が住んでいた借家があるのだが、今や
灯りも消え、周囲には雑草が生い茂っている。みたヤンが住む前のこの
家は長いこと空き家になっていたそうで、そこを家賃1万円で借りていた
のだが、実はオレはこの家が結構気に入っていた。確かに古い家では
あったが、なんとも落ち着く雰囲気だったのだ。
この家のリビングで寝転がりながらオサケを飲むのがオレのお気に入り
だった。雨の峠道を一生懸命走っている時も、オレの頭の中はその光景
ばかりだった。それだけを励みにここへやってきたようなものだ。しかし、
到着してみたら、この変わりようだったのである。この驚き。 

しばらくすると、家の中からみたヤンが現れた。
「いやー、スーさん、久しぶりだね。よく来たよく来た。」
「おいオマエ、一体この家は何なのだ!?こんな話ちっとも聞いてな
かったぞ」
しかしみたヤンは、オレの狼狽ぶりを見ながらニヤニヤと笑っているの
である。どうやらオレが来たらびっくりさせてやろうと、ここへ来るまで
一切を隠していたらしいのだ。なんたることだ。

平屋建ての立派なログハウスだった。周囲の壁は赤い色でカラフルに塗
られており、新しい家の雰囲気満点であった。床下が高めになっているよ
うで、玄関に入るには5段ほどの階段を上がるようになっている。階段の
上は畳3畳分くらいのバルコニーのようになっており、夏場はここでちょっ
としたバーベキューでもできそうだ。ここにはベンチが置いてあるので、冬
場などは体についた雪をここで落とすのだと思われる。北海道の多くの住
居では玄関の前にガラス張りの前室があって、風よけと雪落としのために
使われるが、おそらくそれと同じ目的のスペースだと思う。
玄関の扉も木製で、小さな菱形の小窓がついており、ペンション風の
小じゃれた雰囲気だ。
家の中は屋根裏の無い構造で、非常に天井が高い。ハの字型の天井ま
で3〜4mはあるだろうか。中央に12畳くらい(いやもっとあるか?)のリ
ビングがあり、それを中心に8畳くらいの部屋が3つある。フロはユニット
だが大きめで、非常にきれいである。そういえばお隣の借家には当初フ
ロが無かったので、みたヤンがどこかからもらってきたステンレスの風呂
桶で自作のフロをつくっていたのを思い出す。このフロが非常に雰囲気が
あってよかったのだ。水周りはアルミの板を加工してつくり、業務用のビ
ニールテープで周囲を目止めしてあった。フロのありがたさを実感できる
味わいのあるフロだった。しかしその頃から考えると、新しくなったこの
フロは、格段の進歩である。

家の中では、みたヤンの長男の裕太くんが元気に走り回っていた。奥さ
んのリカボン(あだ名です)も元気であった。到着したのが遅かったので、
下の子は既に寝てしまっていた。
新しくなった家にすっかり戸惑っていたオレだが、ようやく状況を理解しは
じめて、家の中を探検などしていたが、どうにか落ち着いてきたのでフロ
に入れてもらうことにした。寒かったのでフロの暖かさが誠にありがたい。
それからメシをつくってもらい、それを食べて、それから久しぶりにみたヤ
ンと晩酌をはじめた。しかしこの日は夜も遅かったので、早々に切り上げ
て寝ることにした。新しい家で布団を敷いてもらい、そこで寝てみると、本
当にどこかのペンションにでも来たような不思議な気持ちがした。しかしな
がら、お隣の借家の雰囲気も懐かしく思い出されるのであった。



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2002 北海道ツーリング  -11-
鹿追町の道にて。
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左が新しい家。右側が去年までの家。家の前にある赤いワーゲン
は、今では物置になってしまっている。
玄関前のスペース。なかなかの快適空間である。
ミタザキ家のマスコット、ナナちゃん。
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