■夜の峠道
峠に入ってすぐに、すっかり暗くなってしまった。
雨は相変わらず降り続いている。
日高までの峠道は長くて辛かった。しかしその先の日勝峠は更に
長かった。雨の峠道は本当にイヤだ。視界が悪くて何も見えない。
ヘルメットの水滴に車のライトが乱反射して、対向車とすれ違う時
に一瞬何も見えなくなってしまう。時にはそれが1秒ちかくにもなる
ので、その間はヤマカンで走らなくてはならない。
気がつくと道路の一番端を走っていて、驚いて真ん中へ戻る、とい
うこともしばしばである。大型トラックの通行量が多く、道は渋滞気
味で30〜40キロの速度でしか走れない。誠に辛い。前を走ってい
るトラックのテールランプをたよりに走る。

日勝峠に入って1時間くらいたってから
「ちょっとこれはまずいな」
と感じ始めた。危険すぎるのだ。更にさっきから眠くなってきており、
どうしようもないので大声で叫んだりしているのだが、一向に眠気が
覚めない。追い越ししたくても雨で危なくて不可能だし、休みたくても
休む場所なんてない。停まることすらできない。

それでもガマンして走り続け、ようやく峠は終わりに差し掛かってきた。
大きなコンビニがあってそこでようやく停まって休憩した。水銀灯の周
囲の壁には無数の大きな蛾がびっしりと止まっていた。雨が降ってい
るのでヘルメットをかぶったままでタバコを吸った。実に心からホッとし
た。 

ここから先は道を知っている。我が友人みたヤンの住む鹿追町までは
もうそれほど遠くない。遠くないといってもまだ40キロ以上はあるのだ
が、道を知っていることのアドバンテージは想像以上に大きいものな
のである。

そういえば5年ほど前にも、夜の狩勝峠を越えて友人みたヤンの家を
目指して走ったことがあった。あの時も相当辛かった。雨は降っていな
かったが、その年は記録的な冷夏だったこともあり、夜の峠道は相当
に冷え込んでいた。当時は今のようにバイク用のジャケットではなく皮
ジャンで走っていたので、防寒性が非常に低く、体感温度も相当低かっ
た。峠では確か気温が6度くらいだったと思う。夕方6時に富良野を出
発して、狩勝峠を越え、新得に着いた時には体中が凍えていた。その
後で近道をしようと思ったのが失敗のもとで、真っ暗な夜の十勝平野
で道に迷って泣きそうになりながら走ったことを思い出す。あの時は本
当に辛かった。

コンビニから先の道のりは、真っ暗ではあるが快適にさえ感じた。道は
平坦になり、交通量も減った。そして気がつくと雨も止んでいた。周囲
は牧草地帯であり、暗い風景の向こう側に、十勝平野の雄大な広がり
が見えないながらも確実に感じられた。時々鼻先をかすめる畑の飼料
の臭いが妙に懐かしく感じられる。

鹿追町の市街から約10キロ。定規で引いたように真っ直ぐな農道の中
を走ると、ようやく我が友人みたヤンの家に到着である。周囲に何もない
ので真っ暗である。もし初めてここへ来る人だったら、夜に辿り着くのに
一苦労するであろう。ここへ来るのは3年ぶりだ。

着いてみて驚いた。
みたヤンの家は、すっかり新しく生まれ変わっていたのである。



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2002 北海道ツーリング  -10-
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トンネルに入ると少しだけ暖かい。濡れないのはトンネルだけだ。
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