◆飛騨高山で“さるぼぼ”を買おう

高山は、江戸時代からの古風な町並みが残る歴史ある街である。
碁盤目に整理された市街地は、真ん中を川が流れており、
中心部にある綺麗な赤い橋と桜の木が、実に絵になっていた。
お土産屋が続く路地の建物は全て歴史的な建造物だった。
小京都という言葉がぴたりとくる感じである。
連休ということもあり、街は観光客で大変混み合っていた。

春の のどかな日差しと満開の桜の花が、
なんとも気持ちが良い。

ここでオレは、妙なものが気になった。
“さるぼぼ”である。

さるぼぼというのはこの土地に昔から伝わる独特の人形のことで、
真っ赤な体に黒い頭巾と黒いはんてん、そして前掛けをしており、
顔はのっぺらぼうの人形である。
“さるぼぼ”という名前は「猿の赤ちゃん」という意味。だから体は赤い。
猿(えん)があるようにと猿にあやかっているらしい。
安産や魔よけ、夫婦縁にも恵まれるという、
半分はおまもりみたいな役目もあるようだ。
この地方は冬場は雪が深くて遊ぶものがないので、
おばあさんやお母さんが子供につくっていたのがはじまりで、
子供が自由に顔を書けるように昔から顔がないそうである。
(さるぼぼの情報提供はえんどうさん)

どうもこの“さるぼぼ”が気に入ってしまった。
なぜか好きである。妙な愛嬌を感じてしまう。

そういえば以前、京都の清水寺から三年坂を抜けて東山方面へ歩い
て行く途中、家という家の軒先に、このさるぼぼがぶら下がってい
たのを見た記憶がある。
高山のさるぼぼは、両手両足をピンと伸ばして「エビ反り」の姿勢で
空を飛んでいるような格好をしているのだが、
京都のさるぼぼは、座布団の四隅をしばったような形だった。
仰向けで腰を折り曲げて手足をくっつけたような、なんとも窮屈な格好だ。
そして京都の場合、小さなさるぼぼの下に大きなさるぼぼがぶら下がり、
それがだんだんと大きくなりながら5〜6個連なっている、という不思議
な姿をしている。
ロシアのお土産で“マトリョーシカ”という入れ子型の人形があるけれ
ど、あれと同じように、順番に大きくなっていく人形なのである。
上下がさかさまなった親子亀のようにも見える。

この不思議な形のさるぼぼは、京都の東山地域にしかなかった。
そして何故か、京都では、どこにもこの形のさるぼぼを売っていないのである。
しかも特定の時期にしか軒先にぶら下げないようで、
その後何度か京都へ行っているが、軒先のさるぼぼにはあれ以来お目に掛かっ
ていないのである。

その頃からオレは、この不思議な形をした人形の存在が
どうも気になっていた。
顔が無い人形なのに、それでいてなんとも愛嬌がある。
「子供が自由に顔を書けるように」というけれど、
顔が無いからこそ、不思議で神秘的な魅力があるのだと思う。

このさるぼぼ、
京都と高山、どちらが発祥の地なのかはわからないが、
とにかく今回高山でさるぼぼを発見することができた。

 「あんちゃん、オレさるぼぼ買ってもいいかな?」
 オレはあんちゃんに聞いた。わざわざ聞かなくても勝手に買えば
いいのだろうが、黙って買うには気恥ずかしさがあったのだ。

 「え!?なに!?すーさんこんなの買うの?ずいぶんかわいいこと
  言うじゃんかよ!」
 突然のオレの問いかけに、あんちゃんはものすごく意外な顔つきになった。

 「いや、あのさあ、オレ、これ好きなんだよね、ヘヘヘ」
 オレはあんちゃんに答えた。

 「なんでまたさるぼぼなんて買うわけ?女にお土産か?それとも何か、
 この人形に思い出でもあるわけ?」
 あんちゃんは薄ら笑いを浮かべつつ、更に突っ込んでくる。

 「別に思い出なんてないよ、ただオレが欲しいだけだよ。
 だってこれ、かわいいじゃあないか」
 オレは言った。
タカミツと遠藤さんは、さっきから「このことに関してコメントできない」
という卑怯な顔つきで、あんちゃんとオレを傍観していた。

 「あれ?ひょっとしてオレ、すーさんの触れてはいけない過去に触れちゃ
 ったりしたのかな?ハッハッハ!」
 あんちゃんはそう言って高らかに笑った。
 タカミツも遠藤さんも笑った。しかし笑ってはいるが、
みんなはオレがそんな人形を買うことがどうも解せないという様子であった。

オレはもう気にせずに、一番小さなさるぼぼを3つ買うことにした。
照れくさかったけれど、オレは一人で満足していた。



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チーム文句の旅2000  〜春の琵琶湖に大集合の巻〜   -3-
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土産物屋にて。あんちゃん既に退屈。大あくび。
高山の古い街並。土産物屋がつづく。
銭湯の前で。風呂上がりなのにまだ十分明るい。さあ早く飲もう。
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