■なかがき その2

思い返すに、7月初旬の旅の始まりの頃は、とにかく開放感で一杯だった。
まるで無期限みたいな長い長い旅の始まりは、興奮せずにはいられなかった。
でも、手放しで何も考えずに楽しめたのは、
北海道に上陸してから1週間前後だったような気がする。
そこから先は、頭の中を少しずつ余計なことがちらつきはじめた。
まあそれはどういうことかというと、将来のこと、就職のこと、つきあってる人のこと、
親や兄弟のこと、辞めた会社のこと、友人たちのこと、
そして残っている軍資金とその使い道のこと、などなどである。
年齢が30代なかばを過ぎていたこともあった。
そしてひたすら金が無かったこともあった。
だからだんだんと、へんてこな焦燥感みたいなものが生まれていったのだ。
特に、テントで目覚めた朝に、
「げ〜、オレは一体なにやってんだろ良い歳して」
とか、考えなくていい思考が無防備な寝起きのオレを襲ってきたりした。
これは最悪だった。
せっかく楽しい旅をしている最中なのに。

それと、時間がいくらでもある旅の場合、
あせって行動する必要が基本的にないので、
そうすると、逆にどこへ行ったらいいのかわからなくなって、
コンビニの駐車場でフリーズしてしまったりすることもあった。
行く先が決まらなくなってしまうのだ。
これには結構参った。
時間が無い人から見たら、心底ふざけた悩みだと思われるだろう。
でも、このフリーズは結構あった。
モチベーションを見失ってしまう瞬間なのだ。
何度も北海道に来ていて、どこになにがあるのかおおよそ想像できてしまう
というのも、行動のモチベーションを奪ってしまう一因だったかもしれない。
天気の良い午後、人気の無い駐車場で、行き先が決まらずにモタモタしている
ことが、時々あったなぁと、今になって思い出す。

それから今でも残念に思うのは、
6月の北海道を見られなかったことだ。
花だらけの礼文島あたりを、ゆっくりと見てみたかった。
季節が夏へと移り行く様を、じっくりと味わってみたかった。
でも、仕事の引継ぎが長引いて、それができなかった。
そのことが、今でも残念なのだ。
(きっとそういう機会は、この先にも持てないだろうな、と悔しく思う)

そこでオレは、
6月にできなかった分を、9月の旅で取り戻そうと考えたのだ。
だけど、9月というのは北海道では完全に秋だ。
花の季節は終わり、旅人もめっきりと減り、そして気温もかなり下がる。
そして自分の中のテンションまで下がってきてしまう。
そういう環境の中で、一体いつごろまで旅ができるのか、まったく想像がつかなかった。
ところが、この先9月の旅こそ、最も充実した素晴らしいものとなるのだ。
ここからが、旅のハイライトと言えるかもしれない。

さてそんなわけで、またしばらく旅の話にお付き合いいただきたい。
もしできれば感想なんて聞かせていただけると、作者としては とっても嬉しく思う。
(2008年8月31日)

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