■7月25日(5)  午後の気怠さ

オーニタに大声でまくしたれられて、カップルはすっかり無言で固まってしまった。

「脅かして言ってるわけでねえぞ。そうやって今までに何人もケガしてるんだ。だから言ってんだぞ。
 ホントに乗れるなら貸すけど、どうなんだ?乗れんのか?」
 
そうしてオーニタはカウンターから出てきて店先に立ち、並べてあった原付バイクに跨り、
バイクの操作方法をカップルに向かって説明し始めた。

このあたりまで話を聞いていてわかった。どうやらオーニタというのは、
誰に対してもこういう荒っぽい話し方をする人物なのだ。
相手が誰であろうと「おめえ」呼ばわりだし、声はでかいし、言葉も荒い。
カップルはオーニタのレクチャーを受けながら終始うつむき加減である。
そして結局このカップルは、バイクを借りるのを諦めて帰っていってしまった。

後であんちゃんに聞いた話だが、4年前、レンタルでバイクを借りた若い女性が、草むらでバイクを倒してしまい、
店に戻ってからそのことを黙っていて、それが原因でオーニタを激怒させてしまったらしいのだ。
バイクは倒れた時に車体についた草だらけの状態なのに、女性は「倒していません」の一点張りで、
オーニタは女の子が泣くまで問い詰めたらしい。
その時あんちゃんは たまたま店に居合わせていて、その様子を一部始終見ていたのだ。後でオーニタは、
「もう絶対変なヤツにはバイク貸さねぇぞ!ちくしょう、大損こいたぜ!」
と愚痴っていたらしい。なるほどそういういきさつがあったのか。
 

あんちゃんと交代でシャワーを浴びて店に戻ると、外には暑い夏の日差しが照りつけていた。
午後の太陽と、海から上がった気だるい感じとが相まって、実に良い感じだ。
あんちゃんはオーニタと一緒に話を楽しんでいた。
聞けばこのヤマサ食堂も、来年一杯で店を閉めてしまうらしい。
オーニタの奥さんが体調を崩して羽幌の病院に入院しており、一人で店をやるのが厳しいということなのだ。
漁師をしながら店もやるというのは、相当大変なんだろうと思う。
うにぎりが食べられなくなってしまうのは何とも寂しい気がするが、事情があるだけに仕方のないことである。
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店の前でカップルに運転講義をするオーニタ。
言葉は荒いが、実は優しい海の男なのだ。