■7月25日(4)  海の男なのだ

あんちゃんがフロに入っている間、オレはオーニタと話をした。
島の冬というのは相当に寒いのではないかと勝手に想像していたのだが、実は案外暖かくて過ごしやすいという。
風が強い時は猛烈に寒いけれど、島の周りは暖流が流れているので、気温がそれほど低くならないのだ。
海を隔てて数キロ先の羽幌で最低気温がマイナス20度くらいになることがあっても、
島ではマイナス5度以下にはならないという。これはかなり意外な事実であった。
それから、冬の間は何をしているのか聞いてみたら、実は普通に漁をしているらしい。
海が荒れて大変なんではないかと聞いてみたら、

「なぁに、シケってないと魚なんて獲れないよ。シケがイヤでは漁師なんてつとまらないよ、グハハハハ!」
そう言ってオーニタは豪快に笑うのである。
うーん、やはり漁師というのは、オレみたいな軟弱人間には絶対に勤まらない職業なのだなと思ってしまった。

話をしている最中に、若いカップルが店の入り口に入ってきた。
「あのー、すみません、バイクを貸してほしいんですが・・・」
男の方が、か細い声でオーニタに向かってそう言った。しかし、言い終わるのも待たずにオーニタは大声で言った。

「おめえらバイク乗れんのかあ?!」

大男のオーニタにいきなり大声で怒鳴られて、カップルがビクンと緊張するのがわかった。
しかしオーニタはそんな様子を気にもせずにつづけた。
「なあ、バイク乗ったことあんのか?兄ちゃんバイク乗ったことあっか?」

男性の方が答えた。「ボクは乗ったことあります。」
「おー、そうか、姉ちゃんの方はどうだ?乗れんのか?!」
「免許は持ってるけど、実際に乗ったことはありません」女の子が答えた。そこでオーニタは間髪入れずに答えた。

「じゃあやめとけやめとけ。乗ったことないのにいきなり乗ったらケガするぞ。
 ここらの道はアスファルトじゃなくてコンクリートだから固いんだぞ。
 坂道や草むらもいっぱいある。そういうとこでひっくり返ったら腕を折ったり足を折ったりで大ケガするんだぞ!」
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ヤマサ食堂の店内で、オーニタを待つ。
これが“うにぎり”。予想と違って案外と普通の食べ物でした。